アメリカ合衆国でコンセプトアーティスト・イラストレーターとして活動しています、ミヤガワ ヒデヒサです。
この記事では、コンセプトアーティストとして日本国内と国外、両方のプロジェクトを経験した私が、その違いを解説していきたいと思います。
海外でイラストレーターをしてみたい、と考えているあなたの参考になれば嬉しいです!
日本の案件と比べてアメリカの案件を請けて感じるのは
- 時間に対してシビア
- 報酬形態の違い
- 緻密な契約書を交わす
- 制約が緩め
- フリーランスでも与えられる仕事の幅が広い
- 良くも悪くも能力次第
という点が挙げられます。
ひとつひとつ解説していきます。
イラストレーターの仕事:日本案件と比べたアメリカ案件の印象
時間に対してシビア
アメリカ企業の時間に対する感覚は日本企業と比べて比較的しっかりとしています。
まず基本的には1日8時間を超える様な物量の仕事を押し付けられる事はそうそう無いです。
もしもそれを超過するようであればきちんとその分高めのレートで時間換算の報酬が与えられます。
日本人の感覚ですと恐ろしいことに
「残業には文句を言うな、残業代が出るだけ有りがたいと思え」
などという事も有り得てしまうのですが、アメリカだとそもそも
「残業なんて有り得ない」
という感覚で、残業に関する議論の軸が最初からずれている様に感じます。
報酬形態の違い
日本国内のイラストレーターはどちらかと言うと「出来高に応じて報酬を支払う(出来高制)」という形態が多いように感じます(あくまで個人の体感です)。
つまり、一枚のイラストあたり〇〇円で報酬が支払われるという形ですね。
一方アメリカでは出来高制も散見されますが、一方で「かかった時間に応じて報酬が時給換算で支払われる(時給制)」という形態も数多く見られます。
どちらにもメリット・デメリットはあるので、どちらが良いというわけではありませんが、重要なのはとにかく「仕事にかかる時間=報酬」という感覚を持つことです。
例えば弁護士は事務所で相談に乗るにせよ、現場に赴く必要があるにせよ、その移動や相談にかかる時間分の費用はきちんと請求します。
弁護士に仕事を依頼する側からすればとてもシビアに感じてしまうかもしれません。
しかし世界的に見た場合、実はその方がとても真っ当で正しい感覚です。
日本のイラストレーターには特にこの感覚が欠如している、もしくは「サービス精神」と盾に取られ、企業に良いように使われているケースも多い気がします。
緻密な契約書を交わす
特にアメリカという国がそうであるのかも知れませんが、とにかく丁寧な契約書を仕事を始めるときには結びます。
もしかしたらこれは自分だけの経験なのかもしれませんが、日本でフリーランスをやっていた時はろくに契約書も結ばず(というかNDAすら無い案件もありました、どうするつもりだったのでしょう?)、いきなり仕事を振られる事もありました。
―IT弁護士.comより
ちゃんと契約書を交わさないということは、企業側がフリーランスのイラストレーターを無茶に扱うことが出来てしまう…ということになるかもしれません。
契約書はどんな短期の仕事であれ、それの「背骨」の様なものですから、きちんと交わして貰えると安心感があります。
制約が緩め
アメリカの案件は制約が緩い場合が多い印象です。
例えばカードゲームのイラストを描く際には既存のキャラクターを改めて描く事を求められます。
その際にオリジナルのデザインに多少のアレンジを加えたり、描き手の個性を出すことはわりと許されるし喜ばれることが多いです。
その個性を喜んでくれる傾向は日本よりは強いかもしれません。
これは二つとも私が描いた”Eternal”というカードゲームのメインプロモーションイラストなのですが、企業側からはメインキャラクターにアレンジを加えることを提案されその結果を歓迎されました。
ただし日本でも有名なBlizzard(オーバーウォッチ)やRiot Games(リーグオブレジェンド)などは正確なデザイン描写を求められるので、ここで書いたような”制約が緩い”仕事とは真逆です。
なので、この2社の仕事を獲るためには相当厳密に描ける能力が必要となります。
私がBlizzardの”Heroes of the Storm”のプロモーションアニメーション(下記動画)に携わったことがあるのですが、やはり描写に対する管理は厳しかったです。
IPが持つデザインの方向性、雰囲気を正確に踏襲する必要がありました。
ただ、私の体感ではアレンジが許される案件は日本と比べて多い印象です。
フリーランスでも与えられる仕事の幅が広い
アメリカの場合、リモートで働くフリーランスにも重要な仕事を任せてもらえる機会が多いです。
例えば日本国内ですと、チームワークや綿密な打ち合わせを求められるコンセプトアートを遠隔で働く前提のフリーランスに任せることは少ないです。
どちらかと言うと(監修はあるものの)一人で完結することが出来るイラストの仕事を依頼されることが多いですね。
しかし、アメリカの場合はその限りではなく(やはりイラストのほうが比重は大きいように感じますが)、コンセプトアートの仕事も請ける機会が多いです。
例えばディズニーイマジニアリングのDisneyland Resort: Guardians of the Galaxy – Mission Breakout!の仕事をしていた時はプロジェクトの核とも言えるとても重要なシネマティクス(映像)部分の全てのコンセプトアートを任せて頂きました。
何十枚というコンセプトアートを一人で書き上げるのは中々に大変な仕事でしたが、いちフリーランスにそんなに大きな仕事を振って頂いたのはとても光栄でした。
また、ハリウッド映画のコンセプトアートの仕事も(実際にスタジオに赴いて仕事をする事もありますが)遠隔地からフリーランスとして仕事をする事もあります。
このように、リモートで働くフリーランスでも重要な規模の大きい仕事を依頼してもらえる文化があります。
その理由は、コンセプトアートの場合遠隔で働いていても密なコミュニケーションがあり「チームの一員」という感覚で仕事を進行するからです。
そのため、外部発注のフリーランスから正社員の様な勤務形態で雇われていく、という事もよくあります。
日本国内の感覚だとフリーランスから正社員になる、という事は社会的に不可逆な変化に感じる人も多いと思いますが、海外の場合は決してそんな事は無いです。
良くも悪くも能力次第
ここまでまぁ何となく良い事ばかりを並べて来ましたが、決して良いことばかりでもありません。
アメリカの仕事というのはやはり良くも悪くも当人の能力次第な部分が大きいです。
厳密にはキャリアもコネもとても重要で、それでどんどん良い仕事を取れるという事も有り得ます。
でも、実作業に入った際にその期待に応えられなければ、あっさり切られる事もあります。
それは正社員のような立場であっても例外ではないです。(とはいえ、「明日から来なくていいよ」なんて事には中々ならないと思いますが)
また、報酬も幅も広く、能力と与えられる役割に応じて大いに上下します。
私の場合はありがたい事に高めの報酬を頂くことが多いのですが、その分各プロジェクトにおける自身の役割も非常に重要なものが多いので高い技術力が求められます。
クライアントの期待に応えることができれば相応の評価は受けられますし、そうでなければ辞めさせられるシビアな環境です。
日本とアメリカのイラストレーター事情の違い
ざっくりと言えば日本の仕事は良くも悪くも「なあなあ」な部分があり、海外の仕事は良くも悪くも「合理的でシビア」という事になります。
文化の違いも大きいのでアメリカで仕事を獲得する場合は、少し注意が必要です。
海外クライアントとの仕事にチャレンジしたい場合は下記の記事を参考にしてみてください!