ここ1〜2年、こんな気持ちになったことはありませんか。
- SNSを開くと、AIで作られた絵が次々と流れてくる
- 「それ、AIでよくない?」と言われた(言われそうな気がする)
- 自分の仕事がこの先じわじわ減るのではないか、と不安になる
結論から言うと、イラストの需要そのものは消えていません。消えたのではなく、仕事の中身がはっきり二つに分かれ始めたというのが、発注している側から見た実際のところです。
この記事では、AIに置き換わりやすい仕事と、人に残りやすい仕事を具体的に分け、そのうえでこれから増える人と減る人を分けている、たった1つの違いまでお話しします。数字は調べられる範囲の裏付けを付けました。腕の優劣の話ではありません。読み終わる頃には、自分がどちら側に立てばいいのかが見えているはずです。
まず、いま何が起きているのか(データで確認する)
不安の正体をはっきりさせるために、まず数字から見ます。
日本イラストレーション協会(JILLA)が2025年12月に行った意識調査(有効回答386件)では、画像生成AIへの印象は否定的が46.4%、肯定的が32.4%、どちらともいえないが21.2%でした。職種で温度差がはっきりしていて、この調査の回答者では、漫画家の約76%、イラストレーターの約59%が「否定的」、一方でWebデザイナーは約61%が「肯定的」。同じ絵に関わる仕事でも、立ち位置で受け止め方がまるで違います。
出典:日本イラストレーション協会(JILLA)「画像生成AIに対する意識調査」(2025年12月実施)
もう一つ押さえておきたいのは、キャラクターを扱うビジネス自体は縮んでいないことです。国内のキャラクタービジネス市場は近年も拡大が続いています(矢野経済研究所の調査で2兆円台後半規模)。ただし、この数字だけでイラストの仕事量の増減までは言えません。
つまり、起きているのは「絵の仕事がまるごと消える」ことではありません。その一部をAIが担えるようになったことで、仕事が「AIで足りるもの」と「人でないと困るもの」に割れた——これがいま起きていることです。次から、その割れ目を具体的に見ていきます。
AIに置き換わりやすい仕事/人に残りやすい仕事

どこが置き換わって、どこが残るのか。発注の現場で起きている線引きは、だいたい次のように整理できます。
AIに置き換わりやすいもの
- 単発の「それっぽい1枚」 … 誰が描いても大きく変わらない、量産前提のビジュアル
- 資料的な挿絵・アイコン … 内容が伝わればよく、作家性を問われないもの
- ありもの素材の代わり … これまでストック素材で済ませていた用途
共通するのは、「誰が描いたか」が重要でない仕事だということです。ここはAIが入り込みやすい領域で、正面から価格で競うのは厳しくなりやすいところです。
人に残りやすいもの
- 作家性・画風そのものが価値になる仕事 … 「あなたの絵だから」依頼される
- 同じ世界観で続くシリーズ … 10枚、20枚を同じ空気で揃える仕事
- 対話しながら要件を詰める仕事 … 「もう少しこうしたい」に応えていく制作
- 権利がクリーンであることが必要な商用 … 企業が安心して使える絵
- キャラクターをゼロから設計し、一貫して展開する仕事
こちらに共通するのは、「誰が、どう作ったか」まで含めて価値になっていること。1枚の完成度ではなく、続けられること・任せられること・権利が安全なことが評価される領域です。なぜ商用でこれが効くのかを、次に発注側の目線で見ていきます。
なぜ「人に頼む理由」が消えないのか(発注側の本音)
「安くて速いなら全部AIでいいのでは」と思うかもしれません。ところが、お金を払って発注する側に立つと、そう単純にいかない理由が3つあります。
1. 権利が安全かどうか
企業が広告や商品に絵を使うとき、特に避けたいのは後から権利問題が起きることです。学習データの出どころや、他の作品と似てしまうリスクをゼロにしたい。「この絵は誰がどう描いたもので、権利がどこにあるか」をはっきり説明できる状態は、それだけでお金を払う価値があります。実際、先ほどのJILLAの調査でも、クリエイター側の最大の懸念は著作権侵害でした。権利関係を説明できることは、発注側の安心にもつながります。
2. 直しに応えてくれるか
商用の制作は、一発で決まるとは限りません。「ここをこうしたい」に、意図を汲んで応えてくれる——この往復ができることが、現場では重要です。意図を分かっている人に頼むほうが話が早い、という場面もあります。
3. ブランドとして一貫しているか
続いていく広告の企画では、来月も、来年も、同じ空気で続けられることが大切です。ここで「1枚だけ良い絵」より「同じ空気でそろった何枚も」が必要になる、という線引きが効いてきます。
画力の高さだけでなく、この3つが、「安い1枚」ではなく「安心して長く任せられる人」に頼む理由になります。
仕事が増える人と減る人を分けているもの

ここまでを踏まえると、これから増える人と減る人の違いは、はっきりしてきます。画力の天才かどうかではありません。
これから増える人
- 作家性で指名される … 「この人にお願いしたい」と名前で呼ばれる
- 上流に関われる … 何を描くかの企画、キャラクター設計、見せ方のディレクションまで踏み込む
- 権利をクリーンに保てる … 制作の経緯や使った素材を説明でき、権利関係をはっきりさせられる
これから減る人
- 誰が描いても同じ量産案件だけに依存している
- 価格の安さだけで選ばれている
- 単発で終わり、関係が続かない
違いを一言でまとめると、「代わりが利く仕事」をしているか、「代わりが利かない理由」を持っているかです。AIが入り込みやすいのは前者の領域です。だからこそ、後者に自分の軸足を移しておくことが、仕事を続けるための土台になります。
今日からできる3つのこと
「残る側に回る」と言っても、特別な才能の話ではありません。今日から始められることが3つあります。
- 自分が「指名される理由」を言葉にする
あなたに頼む人は、何を気に入っているのか。画風か、テーマか、丁寧さか、対応の速さか。自分でも説明できると、それを前に出した見せ方ができます。ここが曖昧なままだと、価格で比べられやすくなります。 - 「続く関係」を作る動きをする
納品して終わりにせず、次につながる一言を添える・制作実績を見える形で残す。発注側は、一度安心できた相手にはまた頼みやすくなります。続く取引先があると、先の収入の見通しが立てやすくなります。 - 仕事でカバーできる範囲を広げる準備をする
広告などの仕事で発注する側がほしいのは、絵そのものに加えて、「伝わる」「選ばれる」といった結果です。だからこそ、イラストだけでなく、その絵を動かす・どう見せるかまで対応できるようになれば、提案できる仕事の幅を広げられます。「1枚の絵」ではなく、「絵を含めた全体」を相談される立場に近づくということです。広げる方向はデザインや漫画などいくつかありますが、描いた絵を動かせるようになるのは、いま持っている絵の力をそのまま土台にできる広げ方です。アニメーションをやってみたいと思ったら、当サイトを運営する株式会社粕田屋の AdAnimeSTUDIO がおすすめです。広告アニメーションの制作現場の知見をもとにしたイラストレーター向けの講座で、作り方だけでなく、クライアントワークでの企画・構成の考え方から学べます。
この「絵を含めた全体を任せられる人になる」という考え方は、当サイトのXでも書いています。
【AI時代のイラストレーター生存戦略】
AIの普及でイラストの仕事は減っていくと思っています(個人の感想です🫢)
イラスト制作単体は生成AIと競合するので、どう考えても勝ち筋ではないと思っています。
じゃあ絵を描く仕事は無くなってしまうのか? と言われると、… pic.twitter.com/wwxwozH4JA
— イラストレーター生存戦略の粕田 (@ksd_illust) October 5, 2026
まとめ
生成AIが広がっても、起きているのは「イラストの仕事が消える」ことではありませんでした。整理するとこうなります。
- 絵の仕事がまるごと消えたわけではない。キャラクターを扱うビジネス自体は拡大が続いている
- 仕事が二つに割れた。「誰が描いても同じもの」はAIに置き換わりやすく、「誰が・どう作ったかまで価値になるもの」は人に残りやすい
- 発注側が人に頼む理由は、権利の安全・直しへの対応・ブランドの一貫性にある
- 増える人と減る人を分けるのは、「代わりが利かない理由」を持っているかどうか
不安になる気持ちは自然なものです。ただ、こわがって手を止めるより、自分の「代わりが利かない理由」を少しずつ太くしていくほうが、ずっと前に進めます。あなたがこれまで積み上げてきた絵は、その理由の種そのものです。消えるかどうかではなく、どちら側に立つか。そこだけは、自分で選べます。









