イラストやデザインの制作をしていて、こんな経験、ありませんか。
- 一度納品したイラストが、気づいたら別の媒体でも使われていた
- 「これ、SNSのアイコンにも使っていい?」と後から聞かれて、なんとなくOKしてしまった
- 「買い取りで」と言われたけれど、いくらが妥当なのか分からず言い値で受けた
そのたびに、「追加で請求していいのか」「いくらなら妥当なのか」が分からず、結局言い出せずに終わった——。もし心当たりがあるなら、それはあなたが弱気だからではありません。料金の「型」を知らないだけです。
この記事では、二次利用料と著作権譲渡料の相場を数字で示したうえで、同じ1枚のイラストから、後ろめたさなく報酬を上乗せするための「請求の仕方」までを解説します。
まず「制作料」と「使用料」は別のお金だと知る

すべての出発点はここです。1枚のイラストには、性質の違う2種類の対価があります。
- 制作料——絵を描く作業そのものへの対価。あなたの手を動かした時間の分。
- 使用料——描いた絵を「どこで・どのくらい使うか」への対価。
多くのイラストレーターが取りこぼしているのは2番目です。「1枚描いていくら」で見積もると、制作料しか請求できていません。しかし、同じ1枚でも、名刺に載せるのと全国のテレビCMで使うのとでは、生み出す価値がまったく違います。その差を埋めるのが使用料です。
この考え方を持っておくと、「もう描いたものだから」と無料で使い回されるのを防げます。絵は納品して終わりではなく、「どう使われるか」でお金が発生し続ける——これが基本の設計です。
二次利用料の相場|制作料の何割か

最初に納品した用途(一次使用)とは別の媒体で使われるとき、二次利用料(二次使用料)を請求できます。相場は次のとおりです。
一般的に、二次利用料は制作料金の20%〜80%程度とされています。幅があるのは、使われる媒体の影響力が大きいほど高くなるからです。たとえば、SNSのアイコンのような小さな用途なら20%程度、Webサイト全体で使うなら80%程度、といった具合に変わります。
目安として、日本イラストレーター協会(JIA)が公開している基準が参考になります。
| 使用の段階 | 制作料金に対する割合 |
|---|---|
| 二次使用料 | 7割(70%) |
| 三次・四次使用料 | 5割(50%) |
| 五次使用料以降 | 2割(20%) |
出典:日本イラストレーター協会「イラストの料金と著作権に関して」
もちろんこれはあくまで参考値で、発注者の予算に応じた話し合いも前提とされています。現場の感覚としては、制作費の30〜50%程度で交渉されることも多いようです。大事なのは「正確な正解の数字」を出すことではなく、「二次利用にはお金が発生する」という前提を、発注前にお互い共有しておくことです。
※当サイトには、フリーランスの立場から二次使用料を解説した別の記事もあります。あわせてどうぞ。
著作権譲渡(買い取り)の料金|なぜ高くていいのか

「買い取りで」「著作権ごとお願いしたい」と言われることがあります。これは使用料の話ではなく、絵の権利そのものを手放すという、まったく別の契約です。
料金の相場は、一般的に制作料金の2倍〜10倍程度とされています。JIAの基準でも、著作権譲渡は一次使用の2〜3倍程度から設定するとされています。
なぜこれだけ高くなるのか。理由は明確です。譲渡すると、その絵が今後どこで何回使われても、あなたには一切お金が入らなくなるからです。二次利用料も、追加の使用料も、以後は請求できません。将来の収益機会を全部まとめて手放す対価だから、一度きりの制作料より高くて当然なのです。
有名な例として、「およげ!たいやきくん」が一度きりの買い取り契約だったために、その後レコードが記録的に売れても制作側に追加の報酬が入らなかったという話が語り継がれています(買い取り金額には諸説あります)。極端な例ですが、「買い取り=安く済ませたい発注側の都合」でもあることは、頭の片隅に置いておく価値があります。
ただし、著作権譲渡が悪で、断るのが正解、というわけではありません。金額が見合えば受けるのも一つの判断ですし、ロゴやキャラクターのように「発注側が自由に使いたい」正当な理由があるケースもあります。正解は一つではありません。大事なのは、「譲渡なら通常の何倍」という基準を自分の中に持っておき、言い値で即決しないことです。
損しないための「請求の仕方」5ステップ

相場を知っていても、請求の仕方を間違えると受け取れません。ここが本題です。同じ1枚から後ろめたさなく報酬を上乗せするための、具体的な5ステップです。
- 見積書で「制作料」と「使用料」を分けて書く
1行にまとめず、項目を分けます。こうしておくと、後から用途が増えたときに「使用料の追加ですね」と自然に話せます。 - 発注時に「媒体・期間・範囲」を必ず聞く
どこで(Web・印刷・TV・SNS)、いつまで、どの範囲で使うか。これを最初に確定させることが、後のトラブルを9割防ぎます。 - 「聞いていない用途」は別料金にできる建て付けにしておく
「今回はWebサイト用です。他の媒体で使う場合は別途ご相談ください」の一文を、見積書か納品時のメールに入れておきます。 - 買い取りの打診は、その場で即答しない
「一度持ち帰って見積もります」と言えば十分です。譲渡は金額が大きく動くので、慌てて答える必要はありません。 - 口約束にしない。1行でいいので文字に残す
契約書が難しければ、メールやチャットで「今回の使用範囲は〇〇まで」と一言残すだけでも、後ろ盾になります。
この5つは、相手を疑う行為ではなく、お互いの認識をそろえる作業です。範囲がはっきりしているほど、発注側も安心して継続依頼できます。
よくあるつまずき3つ

実際に報酬を取りこぼしてしまうのは、たいてい次の3パターンです。
- 「とりあえずOK」と言ってしまう——後から使う媒体が増えたのに、最初にOKしたぶんで全部カバーされていると思われてしまう。
- 使用範囲を決めずに納品する——「どこまで使っていいか」が曖昧なまま渡すと、請求の根拠がなくなる。
- 金額の話を「気まずいから」と避ける——お金の話を後回しにすると、切り出すタイミングを完全に失う。お金の話は、いちばん関係が良い「発注の最初」にするのが正解です。
逆に言えば、最初のひと手間(範囲を聞く・項目を分ける・一文残す)さえ習慣にすれば、この3つはほぼ防げます。
まとめ
同じ1枚のイラストから、損せず報酬を受け取るために覚えておくことを整理します。
- 制作料と使用料は別のお金。使われ方でお金は発生し続ける
- 二次利用料は制作料の20〜80%(JIA基準で二次7割・三次四次5割・五次以降2割が目安)
- 著作権譲渡は制作料の2〜10倍(将来の収益をすべて手放す対価だから高くていい)。断るのも受けるのも自由だが、言い値で即決しない
- 相場より大事なのが請求の仕方——項目を分ける・範囲を先に聞く・一文残す
相場の数字は交渉の出発点にすぎません。本当に効くのは、「発注の最初に、使われ方を確認しておく」という小さな習慣です。それだけで、同じ絵から受け取れる報酬は変わります。







