ラフを送った数日後、「ここも直したいです、あと背景の色と、ポーズももう少し…」というメッセージが届く。
ありがたい依頼なのに、直すたびに小さなモヤモヤがたまっていく。これ、あと何回まで無料でやればいいんだろう——そんなふうに手が止まった経験は、受けて描く人なら一度はあると思います。
やりとりしていて、こんな気持ちになっていないでしょうか。
- 断ると感じが悪いかな、と思ってつい無料で直し続けてしまう
- 「追加料金です」と言い出すタイミングを逃して、気づけば5回、6回と直している
- そもそもどこからが“追加料金をもらっていい修正”なのか、自分の中でも線が引けていない
これは腕や人柄の問題ではありません。リテイクの回数と料金を、最初に決めて伝えていないだけです。
この記事では、無料リテイクの一般的な回数の目安から、追加料金になる修正の線引き、金額の決め方、そして角を立てずに伝える具体的な言い方までを、受注側(イラストレーター)の目線で順番に整理します。
金額の数字は2026年10月時点で複数の情報をもとにした目安で、断定ではありません。
読み終える頃には、次の依頼で「何回まで」をはっきり言えるようになっているはずです。
イラストのリテイクは何回まで無料?まず相場の目安を知る
最初に、世の中のイラストレーターがどのくらいを「無料」としているのか、目安をつかんでおきましょう。
相場を知っておくと、自分の設定が高すぎ・安すぎにならず、依頼者に説明するときの後ろ盾にもなります。
無料リテイクは「2〜3回まで」とする例が多い
リテイクの解説記事や、イラストレーターの料金表を見ていくと、無料の修正を2〜3回までとしているケースが多いとされています。
たとえば「ラフ段階で◯回まで無料」「本制作でも◯回まで対応」のように、工程ごとに回数を決めている例も紹介されています。
回数に決まったルールはなく、人によって1回のところも、無制限に近いところもあるのが実情です。
何回からが「多い」とされるのか
目安として、複数の解説記事では次のように言われています。
- 5回を超えるあたりから「やや多い」という印象になりやすい
- 10回前後になると、追加料金を設定している例がほとんど
もちろん「1回の修正で何か所も直す」場合もあれば「1か所だけを何度も」の場合もあるので、回数だけで線は引けません。
それでも、自分の中で「ここまでは無料、ここからは相談」というおおよその基準を持っておくと、やりとりがぐっと楽になります。
「1回」の数え方も、あわせて決めておく
回数でもめるもう一つの原因が、「何をもって1回と数えるか」がお互いで違うことです。
依頼者は「一度にまとめて5か所直してもらったから1回」と思い、こちらは「5か所も直したのだから何回ぶんか」と感じる。
このズレが地味にストレスになります。おすすめは、「一度のメッセージでまとめて届いた指示は1回、日をまたいで別々に届いたら別の回」のように、数え方も最初に一言添えておくこと。
こうすると、依頼者も「どうせなら気になるところを全部まとめて送ろう」と動いてくれるので、細切れの修正が減るという副次的な効果もあります。
個人・友だちからの依頼ほど曖昧になりやすい
企業からの発注より、個人や友だちからの依頼のほうが、回数や料金がうやむやになりがちです。
仲が良いぶん言い出しにくく、気づけば延々と無料で直している、というのはよくある話。
親しい相手ほど、最初に条件を一度言葉にしておくほうが、関係もお金も守れます。友だち価格の決め方は別記事で詳しくまとめています。
無料と追加料金の「線引き」はどこ?工程で考える

「何回まで」と同じくらい大事なのが、「どの修正が無料で、どの修正が追加料金か」の線引きです。
ここが曖昧だと、回数を決めていても結局もめます。考え方はシンプルで、イラスト制作の工程のどこまで“戻す”修正かで見分けます。
制作はおおまかに「ヒアリング → ラフ → 線画 → 着彩・仕上げ → 納品・検収」と進みます。
後ろの工程に進むほど、やり直す範囲は広がります。着彩まで終わってから「やっぱりポーズを変えたい」と言われると、線画からやり直しになり、作業量は大きく増えます。
イメージとしては、家を建てるのと同じです。設計図(ラフ)の段階なら部屋の配置を変えるのは簡単ですが、壁を塗ってから間取りを変えたいと言われたら、壁を壊すところからやり直しになります。
同じ「変えたい」でも、どの段階で言うかで作業量はまるで違う——この感覚を依頼者と共有できると、追加料金の話がぐっと通りやすくなります。
上の早見図のとおり、ざっくり言えばラフ段階の調整や、決めた回数内の軽微な直しは基本料金の範囲、無料回数を超えた修正や、工程を戻す大幅な変更は追加料金、という分け方になります。
たとえば「髪の色をもう少し明るく」はたいてい範囲内ですが、「色まで塗り終わったあとにキャラの向きを左右反転したい」は線画からの作り直しになるので、追加の相談になります。
ひとつだけ覚えておきたいのは、こちらの描きミスや指示の取り違えによる直しは、原則として無料で対応するということ。
ここを曖昧にすると信頼を落とすので、追加料金の対象は「依頼者側の都合による変更」と「無料回数の超過」に限る、と自分の中で切り分けておきましょう。
この「工程のどこまで戻すか」で考えると、依頼者にも説明しやすくなります。「ラフのうちならいくらでも調整しますが、色を塗ってからポーズを変えると、線画からやり直しになるので追加になります」と、理由とセットで言えるからです。
なお、リテイクそのものを減らす進め方は、受注側が先回りして工程を設計するのが近道です。
あわせて読むと、この記事の内容がより活きます。
修正回数は最初から「見積もり」に組み込む
ここからが、受けて描く側がいちばん取りこぼしやすいところです。多くの解説記事は「修正が多いときにどう断るか」を扱いますが、本当のコツは断ることではなく、最初から見積もりと料金表に修正回数を組み込んでおくことです。
後から追加料金を切り出すより、はじめに提示してあるほうが、依頼者も納得しやすく、こちらも言い出しやすくなります。
工程ごとに無料回数を割り振る
おすすめは、総回数だけでなく工程ごとに無料回数を分けて書くやり方です。たとえば次のように決めておきます。
- ラフ:2回まで無料(構図・ポーズはこの段階で固める)
- 線画:1回まで無料(形の最終確認)
- 着彩・仕上げ:1回まで無料(色味の微調整)
こうしておくと、「ラフのうちにしっかり固めてもらえれば、余計な追加費用はかかりません」という案内が自然にできます。
工程の早い段階で直すほど安く済む、という流れを作れるので、結果的に依頼者もこちらも得をします。
超過分の単価を先に書いておく
無料回数を超えたぶんの単価も、見積もりの時点で明記しておきます。たとえば「無料回数を超える修正は1回◯◯円」「工程を戻す大幅な変更はお見積もり」のように。
金額が先に書いてあれば、超えたときに「予定どおり追加になります」と事務的に案内できるので、気まずさが激減します。
参考までに、修正を見積に含める例として「修正3回を料金内に入れ、4回目以降は1回+5,000円」といった設定を公開しているイラストレーターもいます(あくまで一例です)。
見積書に何をどう書くかは、工程ごとに整理した別記事が参考になります。
追加料金の金額の決め方と、角を立てない伝え方

「追加料金を取っていいのは分かった。でも、いくらにして、どう言えばいいの?」——ここでつまずく人が多いので、具体的に分けて説明します。
金額は「工数」から逆算する
追加料金の金額は、感覚で決めずかかる作業時間(工数)から逆算するのが基本です。
考え方はかんたんで、まず自分の時間単価(1時間あたりいくらで働きたいか)を決め、修正にかかる見込み時間を掛けます。
たとえば時間単価3,000円で、着彩のやり直しに3時間かかりそうなら、追加の目安は9,000円前後。
「元の見積もりの何割」ではなく「増える作業量ぶん」で出すと、依頼者にも理由を説明しやすくなります。
世間の目安としては、1回の追加修正で数千円〜1万円前後という金額がよく挙げられますが、これはあくまで相場感で、自分の工数と合わなければ合わせる必要はありません。
角を立てない伝え方の型
伝え方は、次の3ステップにすると感じ良くまとまります。
- 事前の合意を思い出してもらう:「最初にお伝えした無料の修正回数(◯回)に達しました」
- 理由を添える:「今回のご要望は着彩後のポーズ変更で、線画からの作り直しになります」
- 選択肢を示す:「この変更は追加◯◯円・納期◯日ほどになりますが、進めてよろしいでしょうか?」
ポイントは、責めるのではなく「予定どおりの案内」として淡々と伝えること。具体的な文例にすると、こうなります。
「ご依頼ありがとうございます。こちら、当初お約束した無料修正の回数(3回)を超えるご要望になります。
着彩後にポーズを変更すると線画から描き直しになるため、追加で◯◯円・納期を◯日いただく形になりますが、進めてよろしいでしょうか?」
最初に条件を伝えてあれば、この案内は“約束の確認”になり、角が立ちません。
相手が企業ではなく個人の場合は、もう少しやわらかい言い回しにすると安心です。たとえば「ここまでで最初にお伝えした無料の回数ぶんは対応できました。
ここからの変更は少し作業が増えるので、追加◯◯円で進める形でも大丈夫でしょうか? 難しければ、今の状態で仕上げることもできます」のように、追加で進める/今の形で仕上げる、の二択を相手にゆだねると、押しつけにならずに済みます。
断る余地を残しておくのが、気まずくならないコツです。なお、追加料金はリテイクだけではありません。
完成した絵を別の用途にも使う(二次利用)、著作権を譲渡する、といった場合も料金が動きます。
合わせて把握しておくと、依頼の見積もり全体がぶれなくなります。
「取引条件の明示」は法律でも求められている
「最初に条件を伝える」のは、マナーの話であると同時に、法律でも求められていることでもあります。
2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(通称フリーランス新法)では、事業者がフリーランスに業務を委託したとき、報酬額・業務の内容・納期などの取引条件を書面またはメール等で明示する義務が定められています(公正取引委員会)。
口頭だけはNGです。
ここで大事なのは、適用される範囲です。間違えやすいので分けて覚えておきましょう。
- 取引条件の明示(報酬額・業務内容・納期など)は、委託するすべての取引が対象です(契約期間の長さは問わない。発注者が個人でも対象)。
- 報酬を受領日から60日以内に支払う義務は、従業員を使用する発注事業者が対象です(契約期間の長さは問わない)。
- 受領拒否・報酬の減額・返品などの禁止行為は、従業員を使用する発注事業者が「1か月以上」の業務委託をした場合が対象です。
詳しい内容は、公正取引委員会のフリーランス法のQ&Aで確認できます。制度は改正されることがあるので、取引の前に一次情報を見ておくと安心です。
受注側は、これを“味方”にできる
この明示義務は発注する側のルールですが、受ける側にとっても追い風です。条件を文章で残すのが当たり前になったので、こちらから「では、修正回数と追加料金も含めて条件を書面(メール)でまとめますね」と切り出しても、まったく不自然ではありません。
修正回数・無料の範囲・超過時の単価も“取引条件”の一部として最初に書いて共有しておけば、後から言った・言わないでもめることがなくなります。
契約書やメールに最低限なにを書けばいいかは、別記事でテンプレート付きで整理しています。
条件を書面で残す流れができると、見積書・請求書もセットで必要になります。こうした書類は、会計ソフトを使うと見積から請求・入金管理までひとつながりで作れて楽になります。
たとえばfreee会計の導入について相談する(株式会社Wiz)
のようなサービスは、見積書の作成からそのまま請求まで扱えるので、取引条件を書類で残す習慣づくりの入口にしやすいです。
どうしても自分で決めにくいなら、ルールが決まった場で受ける
「自分で回数や金額を設定して、毎回交渉するのはやっぱり気が重い」——そう感じる人も多いはずです。
その場合は、最初から修正回数のルールが決まっているプラットフォームで受ける手があります。
スキルを売り買いするサービスでは、出品の時点で「修正は◯回まで」と明記でき、やりとりやお金のルールもサービス側に用意されています。
条件がシステムに組み込まれているので、こちらが毎回ゼロから交渉しなくていいのが利点です。
たとえばココナラ
のようなサービスでは、サービス内容と一緒に修正回数を提示できるため、「何回まで」を自分の言葉で切り出す負担が減ります。
もちろん、プラットフォームには手数料がかかり、価格の相場観もその場に引っ張られます。
直接のやりとりに比べて自由度は下がりますが、条件設定の練習の場として使い、慣れてきたら自分の料金表に反映していく、という進め方もできます。
大事なのは、どの受け方でも「無料の範囲」と「超えたときどうなるか」を先に決めておくこと。
それさえ守れば、場所が変わっても消耗しなくなります。
よくある質問
Q. リテイクの無料回数は、何回に設定するのが正解ですか?
A. 正解の数字はありません。無料2〜3回を目安にする例が多いとされますが、大切なのは回数そのものより「決めて、先に伝えてあるか」です。
工程ごとに(ラフ2回・線画1回・着彩1回など)分けて決めると、依頼者にも説明しやすくなります。
Q. 「修正無制限」とうたうのは、やめたほうがいいですか?
A. 集客のために無制限をうたう人もいますが、その場合も「どの工程まで戻す修正か」の線引きは決めておくことをおすすめします。
軽微な直しは無制限でも、着彩後の構図変更のような工程戻りは別料金、と分けておけば、消耗を防げます。
Q. 追加料金を伝えたら、依頼者に嫌がられませんか?
A. 最初に条件を伝えていれば、追加の案内は“約束の確認”になるので、角は立ちにくいです。
逆に、何も決めずに後から急に言い出すほうが、トラブルになりやすいです。理由(工程戻りで作業が増えること)を添えて、淡々と選択肢として示しましょう。
Q. 自分のミスでの描き直しも、追加料金をもらっていいですか?
A. いいえ。こちらの描きミスや、指示の取り違えによる直しは、原則として無料で対応するのが一般的です。
追加料金の対象になるのは、依頼者側の都合による変更や、無料回数を超えた修正です。
この区別をはっきりさせておくと、信頼を損ないません。
Q. 契約書まで作るのは大げさな気がします。メールでもいいですか?
A. メールやメッセージでも大丈夫です。フリーランス新法でも、取引条件の明示は書面または電磁的方法(メール・メッセージ等)でよいとされています。
かしこまった契約書でなくても、「報酬・内容・納期・修正回数・超過時の料金」を一度文章で送って残しておけば十分です。
Q. もう描き始めてしまいました。今から条件を伝えても遅いですか?
A. 遅くありません。「ここまでの進み具合を踏まえて、今後の修正の進め方だけ整理させてください」と切り出せば、途中からでも仕切り直せます。
次の工程に入る前のタイミングが、伝えやすい区切りになります。
まとめ|「何回まで」を先に決めれば、もう消耗しない
リテイクでモヤモヤするのは、腕のせいでも、断れない性格のせいでもありません。回数と料金を、最初に決めて伝えていないだけです。
要点を振り返ります。
- 無料の目安は2〜3回とする例が多い。5回でやや多い、10回前後で追加料金を設定する例がほとんど、とされる。
- 線引きは「工程のどこまで戻すか」で考える。ラフ段階の調整は軽く、着彩後の工程戻りは作業が大きく増える。自分のミスは無料。
- 修正回数は最初から見積もりに組み込む。工程ごとに無料回数を割り振り、超過分の単価も先に書いておく。
- 追加料金は工数から逆算し、「事前合意の確認 → 理由 → 選択肢」の順で淡々と伝える。
- 取引条件はメールでもいいので文章で残す。フリーランス新法でも明示が求められており、修正回数・追加料金もその一部として最初に共有する。
- 自分で交渉しづらいなら、ルールが決まった場で受けて練習し、慣れたら自分の料金表に反映する。
次の依頼で、見積もりに一行「修正は◯回まで無料、超過分は1回◯◯円」と書き足すだけでも、やりとりはまるで変わります。
正規の料金を、気まずさなく受け取る——その第一歩は、今日の見積もりの一行から始められます。
この記事のテーマを深めるなら、手元に置いておきたいもの。














