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イラストの契約書に書くこと|個人・企業から依頼されたときの最低限の項目とテンプレート

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イラストの依頼を受けるとき、契約書のことが頭の片隅にありながら、こう思っていませんか。

  • 契約書なんて大げさな気がして、メールのやり取りだけで進めている
  • いざ作ろうとしても、何を書けばいいのか分からない
  • 個人からの依頼だと、「契約書をください」と言い出しにくい

気持ちはよく分かります。ただ、トラブルの多くは腕でも相性でもなく、「決めていなかったこと」から起きます。「修正は何回まで?」「その絵、どこまで使っていいの?」——こうした食い違いは、先に紙に書いておけば、ほとんどが起きません。

この記事では、イラストを依頼する側でもある広告アニメーションの制作会社(当サイト運営元の株式会社粕田屋)の目線も交えて、契約書に最低限そろえる項目と、そのまま下敷きにできる記入例(テンプレート)を、個人依頼・企業依頼の違いまで含めて整理します。

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  1. 契約書は「揉めたとき」ではなく「揉める前」に効く
    1. 口約束でも契約は成立している。でも証拠が残らない
    2. 実際に揉めるのは、だいたいこの3つ
  2. まず決める最優先の3項目(揉めごとから逆算する)
    1. ① 使用範囲(どこで・いつまで・独占か)
    2. ② 修正回数(何回まで・何を1回と数えるか)
    3. ③ キャンセル料・着手金
  3. 契約書に書く項目の全体像(品目別のチェックリスト)
  4. 著作権は「譲渡」か「利用許諾」か|ここだけは正確に
    1. 譲渡(買取)と利用許諾の違い
    2. 「譲渡」でも、書き方で残るものがある
    3. 人格権は、買取でも相手に移らない
    4. クレジット(名前)を載せるかも決めておく
  5. そのまま下敷きにできる記入例(簡易テンプレート)
  6. 個人からの依頼と企業からの依頼で、気をつける所が違う
    1. 個人からの依頼:まずは1枚の合意メモから
    2. 企業からの依頼:相手のフォーマットを「読む」側に回る
  7. 契約書がなくても、取引条件の明示は相手の義務になった(フリーランス新法)
    1. 発注側には「書面か電磁的方法での明示」義務がある
    2. ただし、一部の義務は「従業員を雇う発注者」が対象
  8. 契約書の渡し方|紙・PDF・電子契約
  9. よくある質問
    1. Q. 契約書は必ず紙で交わさないとダメですか?
    2. Q. 個人のお客さんに「契約書をください」と言うと、堅苦しくないですか?
    3. Q. 「著作権は譲渡」と書かれていたら、もう何も言えないのですか?
    4. Q. 修正は「無制限」と書くべきですか?
    5. Q. 契約書を作る時間がないときは?
  10. まとめ

契約書は「揉めたとき」ではなく「揉める前」に効く

はじめに、よくある誤解をほどいておきます。

口約束でも契約は成立している。でも証拠が残らない

「契約書を交わしていないから契約が無い」わけではありません。メールや口頭の合意でも、契約自体は成立します。問題は、言った・言わないになったときに何を決めたのかが残っていないことです。契約書は、新しく縛りを作る道具ではなく、お互いが合意した内容を1枚にまとめておく道具だと考えると気が楽になります。

実際に揉めるのは、だいたいこの3つ

制作の現場で食い違いが起きるポイントは、ほぼ決まっています。

  1. 修正の回数——「無制限だと思っていた」「もう3回直したのに、まだ直すの?」
  2. 使う範囲——「SNSアイコン用に描いたのに、グッズになっていた」
  3. キャンセル——「途中で連絡が途絶えたのに、着手金ももらえなかった」

逆に言えば、この3つを先に決めておくだけで、揉めごとの大半は防げます。次章で、まずこの3つから具体的に見ていきます。

まず決める最優先の3項目(揉めごとから逆算する)

まず決める最優先の3項目:①使用範囲 ②修正回数 ③キャンセル料・着手金

項目をいきなり全部そろえようとすると挫折します。揉めやすい3つから先に埋めるのが近道です。

① 使用範囲(どこで・いつまで・独占か)

一番トラブルになるのがここです。同じ1枚の絵でも、「SNSに1回載せる」のと「商品パッケージに5年間使う」のとでは、まったく別の仕事です。契約書には最低限、次の4つを書きます。

  • 媒体(Webだけ/印刷物も/グッズ化も、など)
  • 期間(公開からいつまで使えるか。「期間の定めなし」なのかも明記)
  • 地域(国内のみ/海外も)
  • 独占か非独占か(同じ絵を他の人にも使わせてよいか)

ここが空欄だと、後から「別の媒体でも使いたい」と言われたときに、追加の料金をもらえるのか、無償なのかが決まりません。

② 修正回数(何回まで・何を1回と数えるか)

「修正◯回まで」と書くだけでは不十分です。何をもって1回と数えるかを添えておきます。「気づいた点をまとめて1通で送る」のと「思いついた順にバラバラ送る」のとでは、同じ修正量でも消費する回数が変わるからです。あわせて、どの段階からが修正に入るか(ラフの方向転換は含むのか、清書後からか)も一言入れておくと安全です。

③ キャンセル料・着手金

制作が進んだ後にキャンセルされても、かけた時間は戻りません。「ラフ提出後は◯%、清書後は◯%」のように、工程ごとのキャンセル料を決めておきます。着手金(制作開始時に先にもらう分)を設定しておくと、連絡が途絶えたときのダメージを抑えられます。

この3つが決まっていれば、残りの項目は事務的に埋めるだけです。次の章で全体像を示します。

契約書に書く項目の全体像(品目別のチェックリスト)

イラストの契約書に入れる必須項目のチェックリスト(最優先3つと基本項目)

イラスト制作の契約書に入れておきたい項目を、ひととおり並べます。案件によって増減しますが、この並びを下敷きにすれば抜けが出ません。

  1. 当事者——誰と誰の契約か(氏名/屋号、企業なら正式名称)
  2. 業務内容・仕様——何を作るか(点数・サイズ・解像度・ファイル形式・用途)
  3. 納期・納品方法——いつまでに、どうやって渡すか
  4. 報酬と支払期日——金額(税込/税別を明記)、いつ・どう払うか、振込手数料の負担
  5. 修正回数——何回まで、何を1回と数えるか(前章②)
  6. 使用範囲——媒体・期間・地域・独占/非独占(前章①)
  7. 著作権の扱い——譲渡か、利用許諾か(次章で詳説)
  8. 二次利用——別の用途に使うときの扱い(追加料金の有無)
  9. キャンセル料・着手金——工程ごとの割合(前章③)
  10. 秘密保持——発表前の情報・未公開案件を口外しない
  11. クレジット表記——名前を載せるか/載せないか
  12. 不可抗力・協議——災害・病気などで遅れたときの扱い、決めごとにないことは話し合う

とくに④の支払期日は、口頭だと曖昧になりがちです。「納品の翌月末」のように、はっきり書いておきます。見積書・請求書の書き方とセットで押さえると、お金まわりの抜けがなくなります。

請求書は、項目があらかじめ並んだクラウドの請求書サービスで作ると、支払期日や振込先の書き漏れを防げます。たとえば無料で使える クラウド請求書・見積書・納品書管理サービス Misoca(みそか)なら、見積書から請求書までを同じ画面で作れます。

ひとつ、発注する側の本音も書いておきます。当サイトを運営する粕田屋はイラストを発注する立場でもありますが、使用範囲や納期が空欄の契約書は、社内で予算の決裁が通せません。項目がきちんと埋まっている契約書は、実は発注側にとっても「進めやすい」ものです。契約書を整えるのは相手を疑うことではなく、お互いが安心して進むための共通のメモだと考えてください。

すべてを毎回フルで書く必要はありません。小さな案件なら、この中から①〜⑥と⑨を1枚にまとめるだけでも十分です(記入例は後の章で示します)。

著作権は「譲渡」か「利用許諾」か|ここだけは正確に

契約書でいちばん誤解が多いのが著作権です。言葉の意味を、法律の条文に沿って正確に押さえておきます。

譲渡(買取)と利用許諾の違い

著作権は、著作権法61条1項で「その全部又は一部を譲渡することができる」と定められています。つまり選び方は2つです。

譲渡(買取) 利用許諾(ライセンス)
権利の持ち主 相手(発注者)に移る 自分(制作者)に残る
使える範囲 相手が自由に使える 契約で決めた範囲だけ
その後の二次利用料 原則もらえない 範囲外の利用で別途もらえる

「譲渡」でも、書き方で残るものがある

ここが重要です。著作権法61条2項は、譲渡契約で「第27条(翻案権)又は第28条(二次的著作物の利用に関する権利)」が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定する、と定めています。かみ砕くと、契約書に「27条・28条の権利も含めて譲渡する」とはっきり書いていなければ、描き換え・派生展開に関わる権利は作者側に残ると推定される、ということです。発注側から「著作権を譲渡」とだけ言われたときは、この2条をどう扱うかを確認します。

人格権は、買取でも相手に移らない

もうひとつ。著作権法59条は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない」と定めています。たとえ著作権を買い取られても、作者の人格権(勝手に改変されない権利・氏名表示の権利など)は移りません。ただし実務では「人格権を行使しない」と約束させる条項(不行使特約)が入ることが多いので、そこは読んでおきます。

クレジット(名前)を載せるかも決めておく

自分の名前を制作物に載せられるか(クレジット表記)も、先に決めておきたい項目です。実績として公開してよいか、匿名が条件かで、ポートフォリオに載せられるかが変わります。氏名を表示する権利は人格権にも関わるので、「クレジットを入れる/入れない」「実績として公開してよいか」を一言入れておくと、後で困りません。

二次利用の料金の考え方や、買取で損しないための注意点は、別記事で詳しくまとめています。

このあたりは、現役イラストレーター視点でも語られています(当サイト公式Xより)。

https://twitter.com/ksd_illust/status/2108131536948085231

そのまま下敷きにできる記入例(簡易テンプレート)

いきなり長い契約書を作るのは大変なので、まずは1枚でおさまる簡易版から始めるのがおすすめです。メールの本文や発注書(申込書)に、次のように項目と内容を並べるだけでも、合意の記録として十分に機能します。

項目 記入例(◯は案件に合わせて埋める)
当事者 発注者:◯◯株式会社/制作者:(屋号・氏名)
業務内容 キャラクターイラスト ◯点(◯◯px・RGB・PNG納品)
納期・納品方法 ラフ◯月◯日/完成◯月◯日、ギガファイル便で納品
報酬・支払期日 ◯◯,◯◯◯円(税別)、納品の翌月末までに指定口座へ、振込手数料は発注者負担
修正回数 ラフ時に◯回・清書後◯回まで(まとめて1通で送付したものを1回と数える)
使用範囲 媒体:自社Webサイトのみ/期間:公開から◯年/地域:国内/非独占
著作権 著作権は制作者に留保し、上記範囲での利用を許諾(譲渡しない)
二次利用 範囲外の利用(印刷物・グッズ等)は事前協議のうえ別途料金
キャンセル料 ラフ提出後◯%/清書後◯%

ポイントは、金額と期日と使用範囲を、空欄のまま進めないことです。埋められない欄があるときは、そこが未合意のサインなので、発注前に確認します。企業との大きな案件では、ここに秘密保持・不可抗力・協議・反社会的勢力の排除などを足した、正式な契約書に起こします。

個人からの依頼と企業からの依頼で、気をつける所が違う

同じ「契約書」でも、相手が個人か企業かで、力を入れる場所が変わります。

個人からの依頼:まずは1枚の合意メモから

個人のお客さま(SNSでつながった人、知り合いなど)は、契約書に不慣れなことが多く、口約束や後出しの要望になりやすいのが特徴です。いきなり分厚い契約書を出すと身構えられてしまうので、前章の簡易版をメール本文に書いて「この内容で進めますね」と送るだけでも十分です。とくに決めておきたいのは、修正回数・使用範囲・キャンセル料の3つ。友達価格のような個人依頼で損をしないコツは、こちらの記事にまとめています。

企業からの依頼:相手のフォーマットを「読む」側に回る

企業はたいてい自社の契約書フォーマットを持っています。このとき注意したいのは、発注側に有利な条項が標準で入っていることがある点です。具体的には、

  • 「著作権はすべて譲渡」——27条・28条も含むのか、人格権の不行使まで求められているか
  • 「独占」「無期限」——他の仕事に使い回せなくなる範囲になっていないか
  • 修正回数の記載なし——「無制限」と解釈されないか

すべてをはねる必要はありません。譲渡なら報酬に反映されているか、独占なら期間が区切られているか——条件とセットで見て、気になる所だけ質問すればOKです。「契約書を読んでから返事します」と一言伝えるのは、まったく失礼ではありません。

契約書がなくても、取引条件の明示は相手の義務になった(フリーランス新法)

「相手が契約書を作ってくれない」ときの、心強い足場になる法律があります。フリーランス・事業者間取引適正化等法(通称フリーランス新法)です。2024年11月1日に施行されました。

発注側には「書面か電磁的方法での明示」義務がある

この法律では、フリーランスに仕事を発注する事業者は、取引条件を書面または電磁的方法(メールやメッセージ等)で明示する義務があります。口頭だけで済ませることは認められていません。明示すべき事項は、給付の内容・報酬の額・支払期日・当事者の名称・委託日・受領(提供)の日と場所・検査完了日・現金以外の支払方法、の9項目です。つまり、正式な契約書までは作れなくても、この9項目がメールで届いている状態が最低ラインということです。もしメールで明示された場合でも、書面の交付を求めればもらえます。

ただし、一部の義務は「従業員を雇う発注者」が対象

注意したいのは、すべての義務がすべての発注者にかかるわけではない点です。報酬を60日以内に支払う義務や、受領拒否・減額など7つの禁止行為などは、従業員を使用している発注事業者(特定業務委託事業者)が対象です。個人がちょっとした副業で発注するケースなどは、明示義務の範囲にとどまることがあります。このあたりの線引きや、未払い・減額に遭ったときの対処は、別記事で整理しています。

支払期日を決めていても、入金が「納品の翌月末」などで先になると、その間の生活費が苦しくなることがあります。そんなときは、発行した請求書を先に現金化できるフリーランス向けのサービスもあります(手数料がかかるので、使う前に料率を確認してください)。

所管は公正取引委員会と中小企業庁です。困ったときの相談窓口(フリーランス・トラブル110番)も用意されています。

契約書の渡し方|紙・PDF・電子契約

最後に、作った契約書をどう取り交わすかです。方法は大きく3つあります。

  1. 紙で2通——印刷して押印し、1通ずつ保管。正式だが郵送の手間がかかる
  2. PDFをメールで——内容に合意した旨をメールで残す。小さな案件はこれで十分なことが多い
  3. 電子契約サービス——オンラインで署名・保管まで完結。印紙代や郵送の手間が省ける

個人案件なら②のメール合意で軽く、企業案件や継続取引なら③の電子契約サービスを使うと管理が楽になります。大切なのは、形式より「決めた内容が、後から確認できる形で残っていること」です。

よくある質問

Q. 契約書は必ず紙で交わさないとダメですか?

いいえ。メールやPDF、電子契約でも有効です。大切なのは形式ではなく、合意した内容が後から確認できる形で残っていることです。小さな案件なら、本文に条件を書いたメールで合意するだけでも機能します。

Q. 個人のお客さんに「契約書をください」と言うと、堅苦しくないですか?

「契約書」という言葉が重いなら、「確認のため、内容をまとめて送りますね」と簡易版のメモをこちらから送る形にすれば角が立ちません。相手に書かせるのではなく、自分から出すのがコツです。

Q. 「著作権は譲渡」と書かれていたら、もう何も言えないのですか?

そうとは限りません。著作権法61条2項により、描き換え(27条)や派生展開(28条)の権利は「特掲」していなければ作者に残ると推定されます。また人格権は59条で譲渡できません。条件(報酬・範囲)とセットで確認し、気になる点は質問して問題ありません。

Q. 修正は「無制限」と書くべきですか?

無制限にする場合も、「何を1回と数えるか」「どの段階からが修正か」を添えるのが安全です。回数を区切る場合は、その前提で見積もりと納期を組めるので、必ずしも悪いことではありません。

Q. 契約書を作る時間がないときは?

最優先の3つ——使用範囲・修正回数・キャンセル料——だけでもメールで合意しておきましょう。この3つが揉めごとの大半だからです。残りは後からでも足せます。

まとめ

イラストの契約書は、相手を縛るためではなく、お互いが合意した内容を1枚に残しておくためのものです。要点を整理します。

  1. 揉めやすいのは使用範囲・修正回数・キャンセル料の3つ。まずここを決める
  2. 項目は当事者・業務内容・納期・報酬と支払期日・著作権・二次利用・秘密保持などを品目別に
  3. 著作権は譲渡か利用許諾か。譲渡でも27条・28条は特掲がなければ作者に残る推定、人格権は譲渡できない(著作権法59・61条)
  4. 個人依頼は1枚の合意メモから、企業依頼は相手のフォーマットを読む側に
  5. 契約書がなくても、発注側には取引条件を明示する義務がある(フリーランス新法・2024年11月1日施行)

完璧な契約書をいきなり目指す必要はありません。簡易版の1枚から始めて、案件が大きくなるにつれて項目を足していけば十分です。契約を整えることは、絵の価値を守ることと同じです。今日の案件から、まず3つだけでも紙に書いてみてください。

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