イラストレーターをしていると、お仕事の依頼が来た時に嬉しい半面、内容や条件によっては「この案件受けても大丈夫だろうか」と不安になることもあります。
依頼をいただけることはありがたいので本当ならすべて請けたいところですが、今回はお断りしたほうがいいかも……となることもあるのが現実です。
果たして断るのがいいのか、それとも思い切って請けてみるのがいいのか。
今回お届けするこの記事では
仕事を請けるか迷った時の考え方のポイントと断る以外の代替策
を数パターンの事例に分けてご提案したいと思います。
スケジュール的に厳しい案件
現在の自分のスケジュールにあまり余裕がない場合や希望納期までの時間が短すぎる場合、本当に期限内に作品を完成させることが可能かを見極めなくてはいけません。
自分の作業スピードや能力を冷静に分析して、間に合わせることができるか考えてみましょう。
また、同時に別の案件も手がけているような時は、今回の案件を引き受けて同時進行で進めても差し支えないか、双方に迷惑がかからずに進められるかどうかも大事なポイントです。
私のような副業イラストレーターの場合、本業の仕事との兼ね合いも考える必要があります。
こういった状況を判断した上でもし厳しいかなと思った際は、次に紹介する提案をクライアントに投げかけてみてください。
スケジュールに余裕を持たせる提案
「この納期だとちょっと厳しい」ということをクライアントに伝え、納期をもう少し先に伸ばせないか尋ねてみましょう。
もしかすると先方側で納期を延長できるよう調整してくれるかもしれません。
互いに調整しあって無理のない納期を設定できればベストですね。
もしもどうしても引き延ばすことができないという時は、その納期までに確実にお渡しするための条件を提示してみてはいかがでしょうか。
あなたなりの時短テクニック(「アニメ塗りなら素早く描ける」「影の塗り込みをもっとシンプルにする」など)を紹介して、「この描き方なら納期内に制作できる」と伝えてみましょう。
絶対に無理しすぎない!
せっかくのご依頼を断りたくないし自分が頑張ればできないことはない、そう思ってしまう人も多いでしょう。
でも、無理して請けてしまうと肉体的にも精神的にも追い詰められる可能性が高くなります。
くれぐれもスケジュールにはある程度の余裕を持たせるようにし、どうしても厳しい状況だと判断した場合はその旨をお伝えした上でお断りする勇気も必要です。
ふだん描かない画風・題材の案件
あなたがふだん描いている画風とは違うテイストのものを要求されたり、あまり描いたことのない題材の依頼が来ることもあります。
例えば、いつもポップなテイストで女性キャラを中心に描いているあなたに、劇画タッチの筋肉質な男性を描いてほしいという依頼が来たら、請けてもいいのか悩みますよね?
ほとんどのイラストレーターは、それぞれ自分の得意なジャンル・不得意なジャンルがあります。
なので自分の画風や得意ジャンル以外の依頼が来たら、そういう画風の制作は不慣れである旨を先方に伝えましょう。
それでも自分に依頼をしてくださるか、それともほかに得意なイラストレーターさんを探してそちらに依頼するか、クライアントの判断に委ねます。
挑戦やスキルアップのチャンスになる
ふだん描かないからといって安易にお断りするのはもったいないという見方もあります。
描いたことのないものを描くキッカケになるわけですし、描ける幅を広げるチャンスにも繋がります。
せっかくなので前向きに捉えてお引き受けするのも一つの選択肢です。
こういう実例もあるようですし。。
描き慣れないものを描くには?
画風を変えるとなったら、やはりその画風で描かれたイラストを探して参考にするのがいちばんです。
イラストをじっくり観察し、その画風ならではの特徴や表現方法を探りつつ自分なりに再現してみましょう。
上手くコツをつかめれば、見よう見まねでも意外とそれらしい雰囲気になるのではないかと思いますよ。
いつもと違う描き方をするのは新鮮で楽しいですし、今まで気づかなかったけどこの描き方は自分に合ってるかもしれない……という新たな発見もあるかもしれません。
当然ですが、「パクリ」は×です!
あくまでも”参考”にとどめましょう。
ほかにも、ネットや書籍でその題材を描く方法が解説されていないか探してみて、それを参考にするという方法があります。
参考記事>>
自分のブランディングを考え断る
例えばあなたが植物を専門に描くイラストレーターを目指している場合、車を描くイラストの依頼を請けるかは考え物です。
請けたとしても作風がブレるためポートフォリオに入れるわけにもいかず、ただただ幾らかの制作料を受け取るためだけの仕事になってしまい次に繋がりません。
自分のスタイルを確立させるために、描くべきものと描かないものを区別して依頼を請けるようにするのも正しい考え方のひとつです。
脳内アーティスト稲沼竣に学ぶ月収倍増の秘密!セルフブランディングの重要性
発注数が多い案件
案件によっては、一度に大量の枚数を発注されることもあります。
数が多いとそれだけ受け取れる賃金も上がることが多いため、一見するととてもうれしい案件に見えます。
しかし、安易に請けてしまって大丈夫でしょうか。
先方が指定した納期までに、本当にすべて完成させることができますか?
自身の作業スピードと発注数を照らし合わせ、納期までにきちんとお渡しできるかどうか考えてみましょう。
前述の『スケジュール的に厳しい場合』の項目と重複しますが、他の案件と同時進行の場合はそれぞれを問題なく納期までに完成できるかなどを考える必要も出てきますし、副業イラストレーターなら本業で急な予定が入ったりして当初のスケジュール通りに進められなくなる可能性も出てきますので、やはり多少余裕のある状態で請けたいものです。
もしギリギリすぎて厳しいかも……と思うような時は、これも『スケジュール的に厳しい場合』の項目でお伝えしたような納期の延長・時短の提案などの打診も試してみるといいと思います。
新しい仕事を入れにくくなる
仮に発注された数を納期までに描けると思って引き受けたとしても、おそらくそれはその時点でのスケジュール状況から判断したことでしょう。
つまり、その案件に取りかかっている間にさらに新しい仕事を入れることは想定していない場合が多いのではないでしょうか。
そうなると、例えばその案件中に新しい依頼のお話が来たとしても、お断りしなければならない可能性が高くなります。
大量発注案件の場合は、基本的にはある程度の長期案件となると思います。
その一定期間、新規のお仕事を請けづらくなってしまうというデメリットも考慮しておく必要がありそうです。
価格が低い案件
クライアントから、自分の思っているより低い金額を提示をされることがあります。
その場合まずは金額交渉からしてみましょう。コチラの記事が参考になります!
それでも予算の都合などでどうしてもこの価格でしか依頼できないとなったらお断りするのも一つの選択肢ですが、その価格でも請けたいと思えるかどうかをじっくり考えてみてください。
例えば、あなたが以前からずっとやりたかったラノベの表紙の依頼が来たとしましょう。
せっかくの依頼を断ってしまったら、次にいつまたラノベのお仕事が来るかは分からない……。
だったら、価格に関係なく請けたほうがいいですよね。
また、クライアントから「どうしてもあなたに描いてほしいんです!他の人じゃなくてあなたがいいんです!」という強い熱意を感じたら、とてもうれしいしぜひお請けしたいと思えますよね。
価格より内容で判断するのもアリだと思います!
「本来はもう少し高い」とさり気なく伝える
価格より内容で今回はお引き受けすると判断した場合も、「本来この内容の場合はこれくらいの金額でお請けしているけど今回だけ特別にこの金額で描かせていただきますね」ということを一言さり気なくお伝えすることをオススメします。
そうしないと次にまた同じような案件を依頼された時にまたその金額を提示されてしまう可能性があり、価格交渉をしようとしても「前回はこれで描いてくれたじゃないか」となってしまいかねません。
また、別のクライアントからの依頼でも「この前Aさんがこの金額で描いてもらったと聞いた」と言われてしまったら、同じ金額で請けなくてはならなくなってしまいます。
本来はもう少し高いということをきちんとお伝えしておけば、そういったことも防げるので今後も安心です。
実績公開できない案件
通常、請けた仕事はサイトやSNSなどに実績として公開し、営業活動に役立てることができます。
しかし、依頼の中には実績公開不可の案件もあったりします。
そうなると、その案件自体の報酬は得ることができますが、それを今後の仕事に直接的につなげることは難しくなってしまいます。
宣伝効果がないというリスクを考慮した上で、それでも引き受けたい内容かどうかをよく考えて判断しましょう。
「経験」という実績を積むことはできる
仮に実績公開不可の場合、宣伝効果はたしかにありませんが、その案件を引き受けたことで「経験」は得られます。
そのイラストを描く経験を通じて得るものがきっとあるはずです。
例えば、少しでも多くの作品を手がけることはイラストの上達にもつながりますし、作品を描く上でさまざまな発見や気づきも出てきたりします。
それらは今後の創作活動にきっと役立つはず。
経験という実績が積めるというメリットを考え、宣伝効果がなくても安易にお断りせず引き受ける選択肢もあるんだということを頭に入れておきましょう。
心身の不調がある場合
イラストレーターの仕事はいわば歩合制であり、やればやるほど収入を得られるのが一般的です。
逆に言えば、休んでしまうとそれだけ収入が減ってしまうというリスクもあります。
せっかく来た仕事のチャンスを逃したくない、これを断ったら次にいつ仕事が来るか分からない、少しでも収入を増やしたい、などの理由で、どんなに体調が悪くても引き受けようとしてしまう人はいませんか?
しかし、体調が悪い中で無理やり仕事をしても、いい作品は描けないのではないでしょうか。
仕事を引き受けた以上は、少しでもいい作品にしたいですよね。
だったら、コンディションが万全の状態で臨みたいものです。
もし体調があまりよくない時に依頼が来たら、自分の体とよく相談して少しでも絵に影響が出そうだと思ったら思い切ってお断りする勇気を持ちましょう。
にんげんだもの、仕事したくない時だってある
身体の不調に限らず、気分がどうしても乗らない時だってあると思います。
精神的に辛いことがあったり、どうしても絵を描く気力が起きなかったり。
イラストレーターだって人間です、お仕事をしたくないと思ってしまう時だってあります。
体調が悪い時同様、メンタルの調子が悪い場合もいい作品はあまり描けないものです。
真面目な人ほど無理して頑張ろうとするかもしれませんが、気分が乗らないような時は依頼を断るのもいいと思います。
描きたいのに描けない!?絵を描くモチベーションを爆上げする6つの方法
クライアントの人間性や価値観
クライアントが初めましての時から極端にフランクな言葉遣いだった場合、あるいは相手に悪気はないのかもしれませんが物の言い方が上から目線に聞こえる場合、そんな人の依頼を受けるのは気が引けるな~と思うことはありませんか?
このへんは好みの問題かもしれません。
私は本業でビジネスマナーを意識しているせいか、イラストの仕事でも初めてのクライアントとやり取りする時は特に最低限の言葉遣いや作法については無意識に気を配っています。
そのため先方があまりにもフランクすぎると一瞬違和感があったり、この人本当に大丈夫だろうかと不安な思いがよぎることも……。
フランクなほうが、堅苦しすぎるより気楽でやりやすいという人もいるでしょう。
上から目線に感じる言葉遣いもまったく気にならない人もいると思います。
依頼内容さえ納得できれば相手の人柄は気にしないのか、気にはなるけど仕事と割り切るのか、考え方はさまざまですし、その人の依頼を請けるかどうかはあなた次第です。
もしどうしても気が乗らないなら、スケジュールの都合など適当な理由をつけてお断りしてもいいのではないでしょうか。
甘い言葉は要注意?
「今後○○様には定期的に依頼させていただきたいと思っております。」
「この案件は今後絶対にあなたにとってプラスになります!」
クライアントがこういった話をした時、一見とてもいい案件のように見えてしまいますが、私は簡単に鵜呑みにしないようにしています。
過去の個人的な経験ですが、継続依頼を約束してくださったはずのクライアントさんが、1つ目の案件の納品を終えたあとにまったく音沙汰無しとなったことがあります(笑)。
こちらから「次はいつですか?」とお尋ねするのもなんだかガツガツしているような気がするので、「先日はありがとうございました」とお礼の挨拶がてらさり気な~く連絡を取ってみました。
すると爆速で返信が来て(笑)、「先日のイラスト、本当に素晴らしかったです!今後ともよろしくお願いいたします!」とのこと。
「おっ、やっぱり継続的に依頼していただけるんだ!」とその時は安心しましたが、結局その後再び連絡は途絶えました(汗)。
私の作品にご満足いただけず他の方に依頼することにしたのか、それとも継続依頼というのは社交辞令だったのか、もしくは何か急な予定で継続依頼が中止になったのか、何が理由なのかは分かりません。
いずれにせよ、継続依頼の約束は絶対ではないこともあるんだなと勉強になりました。
また、「あなたにプラスになる」という言葉は、裏を返せば「請けないと後悔しますよ」という意志の現れだったりします。
依頼を請けてもらわないと自分が困るから言っている、自分のために出てくる言葉かもしれません。
そうやって依頼されてきた方と実際にお仕事をしたことがありますが、やり取りを続ける中でも常に自分の都合を優先されている様子が見え隠れしました。
なので、こちら側のメリットばかり強調してくる人の言葉は、あまり信用できないというのが個人的な印象です。
すべてがそうとは限りませんが、やたらめったらこちらのメリットばかり強調して依頼をしてくる場合は少し注意して見る必要があるということを覚えておいてください。
お断りする際の注意点
これまで紹介したポイントを踏まえて、もし「今回はお断りしよう」と判断した場合、こちらの誠意が伝わる断り方を意識しましょう。
「無理です」「請けられません」とキッパリお断りしてしまうと、先方に不快感を与えかねません。
せっかく依頼をくださったのですから、それに対する感謝の思いも伝えつつ、「本当はぜひお請けしたいところですがどうしても無理で……」という残念な気持ちをきちんと表現しましょう。
また、「断ったらもう二度と依頼が来ないかも……」という不安もありますが、「次の機会がございましたら」と添えることでまたいつかお声がけしてもらえる可能性があります。
基本的にはお断りする理由をきちんと正直にお伝えしますが、例えば気分が乗らなかったり先方の人間性が理由の時は相手も気分を害す可能性がありますし、正直には言いづらいですよね。
嘘も方便といいますが、もし正直に伝えるのは気が引けるという時は、嘘の理由を使ってもいいんじゃないでしょうか。
もちろん、先方を不快にさせないためであって、こちらの一方的な都合で嘘をつくというわけではありません。
先方への配慮をしつつこちらもスムーズにお断りを入れるという目的で、「今回はどうしてもスケジュールが合わなくて……」など本来とは違う理由をつけてみるのも時と場合によってはアリだと思います。
判断基準を明確にしておく
依頼が来るたびに「どうしよう」と迷って悩んでしまうと大変なので、あらかじめ自分の中で「こういう場合は請けない!」という明確な判断基準を設定しておくといいと思います。
多少は柔軟に対応しつつも、基本としてはあらかじめ設定した判断基準と照らし合わせて請けるか否かを決めるようにしましょう。
もちろん、その基準は一度決めたら変えてはいけないというわけでもありません。
これからあなたがいろんな経験を積むことによって、こういう案件は請けたほうがいい(またはお断りしたほうがいい)という気づきや発見も出てくると思います。
その経験に従って基準を変えていけばいいのです。
最後に
イラストレーターにはさまざまなご依頼がやってきます。
本当はすべての依頼を請けたいところですが、あとから後悔する前に断る勇気も必要になってきます。
今回ご提案した判断基準のポイントは、すべての事例に当てはまるわけでもなくあくまでも参考例です。
ただ、こういう可能性もあるんだと知識として覚えておいていただき、皆さんが仕事を請けるか判断する際のお役に立てれば幸いです。
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